リオ五輪が閉会しました。
体操、水泳、柔道、レスリング、卓球にバドミントン、陸上競技においてまで、日本人選手の活躍に心揺さぶられました。 その中で今回、触れずに済ますわけにはいかないのが、レスリングの吉田沙保里選手です。五輪を3連覇、世界選手権を13連覇した彼女の敗退は、まさに衝撃的でした。
既に伝説の選手ともいえる彼女に対する非難の声はもちろん聞かれませんが、口には出せないものの、本心では「何でーッ!?」と割り切れない人も多いのではないかと思います。
彼女は引き際を誤ったのでしょうか? 晩節を汚してしまったのでしょうか?
野村忠宏選手は五輪柔道4連覇のかかった北京大会へは、国内予選で敗退したため出場さえ叶いませんでした。それでも40歳まで現役にこだわり続け、最期は国内大会の3回戦で23歳の無名選手に畳に叩き付けられて、引退しました。
北島康介選手は、五輪平泳ぎ3連覇に挑んだロンドン大会で惜敗。第一線を退いたかと思いきや、リオ五輪出場を目指すことを宣言。そして“必死さ”を隠そうともせずに臨んだ国内予選で若手選手の後塵を拝し、引退しました。
しかし、それらの敗北が彼らの偉業に傷を付けるようなことは決してありません。むしろ彼らの功績に彩りを添えてさえいます。
どんな名選手でも、生身の人間である限り体力の衰えは必至であり、永遠に勝ち続けることはできません。「無敗のまま引退するという美学」もあるのかもしれませんが、勝ち続けられる保証もなく、“伝説”が崩れてしまう可能性もあるのに、真剣勝負の場に身を置かずにはいられない姿もまた、深く我々の胸を打ちます。
吉田選手は胸を張っていいのです。それは「銀メダルだから」「世界2位だから」ではありません。彼女の背中を追って技を磨いてきた若手選手たちが、今回金メダルを獲得したことを挙げるまでもなく、日本いや世界の女子レスリング界において彼女の残した業績はすでに十分すぎるほど偉大だからです。今回たとえ1回戦で負けていたとしても、堂々としていていいのです。
聞くところによれば、吉田選手を破った米国選手は、吉田選手に憧れてレスリングに打ち込み、自身の英雄である彼女を倒すため徹底的に研究を重ね、過酷な減量に耐えて階級を落としてまで挑んできたというではありませんか。たしか勝利が決まった瞬間から号泣していたような・・・敵ながら天晴れです。
吉田選手にはぜひ、「4年後にリベンジする」などと野暮なことを言うのではなく、彼女が今後育てる弟子の手で、この“借り“を返して欲しいと思います。そのほうが日本レスリング界の更なる発展にもつながるし、伝説・物語もより奥深いものになっていきます。
長い間、お疲れ様でした。