毛虫負け

「先生、ほらっ!ここのところが“ゴム負け”しちゃって!」
女性患者さんが、そう言いながら、自分のウエストあたりを見せてくれました。
下着のゴム部分が皮膚に食い込み、溝状に赤くただれています。
「おー、確かに。思いっきり負けていますね、ゴムに。 塗り薬を出しておきましょう・・・」

「負ける」というのに「薬品や漆などにかぶれる」という意味があるため、「~~負け」というのは、「~~」にかぶれた時に使う言葉です。医学的にいえば接触皮膚炎です。
語源にもなった「漆負け」が有名ですが、上述の「ゴム負け」や「草負け」「毛虫負け」などもたまに聞かれます。じゃあ、「日焼け」は「日負け」か?と思ったら、実際そういう使い方もあるようです

自身の皮膚トラブルの原因となった相手の卑劣さ、毒々しさを騒ぎ立てることなく、毛虫にさえも敬意を払い、不意打ちとはいえ、それが「勝負」だったと割り切り、自分の防御力の不備を悔い、潔く「負け」を認めるというのは、なんとも謙虚な日本人らしい言い回しです。

日本人に生まれてよかった。
でも毛虫は、「毛虫勝ち」でも御免です。

 

写真はクリニックの植栽。毛虫はいません。